遺産分割協議書の書き方は?基本項目や提出先などをわかりやすく解説

最終更新日 2025年4月22日
相続手続を進めるなかでつまずきやすいのが、遺産分割協議書の書き方です。
遺産分割協議書は、相続人全員が合意した遺産の分割方法を記録する重要な書類ですが、作成方法や必要な項目、提出先などについて、詳しく知っている方は稀といえるでしょう。
遺産分割協議書の作成に誤りがあると、相続手続が滞る原因になります。
この記事では、遺産分割協議書の基本的な書き方や記載すべき項目、提出先などについて詳しく解説します。
相続の煩わしさを軽減し、故人の遺志を尊重した円滑な財産分割を実現したい方は、ぜひ参考にしてください。
遺産分割協議書とは
遺産分割協議書とは、相続人全員が合意した遺産の分割方法を記録する法的文書です。
被相続人の死亡後、相続人間で話し合いを行い、誰がどの財産を相続するかを決定します。
その内容を書面にまとめたものが、遺産分割協議書です。
遺産分割協議書に記載する情報は、以下の通りです。
- 被相続人の情報
- 相続人の情報
- 相続財産の内容
- 分割方法
遺産分割協議書は相続手続を進めるうえで重要な役割を果たすだけでなく、相続登記や預貯金の払い戻しなどにも必要です。
また、作成する際は、相続人全員の署名と実印による押印が欠かせません。
遺産分割協議書の書き方
遺産分割協議書の書き方に、決まった様式はありませんが、いくつかの項目を含める必要があります(実際に作成したときは、間違いがないよう、調印する前に必ず弁護士などの専門家に確認してください。)。
ここでは、遺産分割協議書の書き方を項目ごとに詳しく解説します。
基本となる項目
遺産分割協議書の基本となる項目は、以下の通りです。
- 被相続人の情報
- 相続人の情報
- 相続財産の内容
- 分割方法
- 作成日
- 署名・押印
被相続人の情報には、氏名や死亡年月日、最後の住所、本籍地を記載します。
相続人の情報は、氏名や続柄、住所を明記してください。
相続財産の内容は、不動産や預貯金、有価証券など、すべての財産を具体的に記載します。
分割方法は、誰がどの財産を相続するかを明確に示さなければいけません。
作成日は、遺産分割協議が成立した日付を記入します。
最後に、相続人全員が署名し、実印を押印します。
現預金
現預金の記載方法は、以下を明確に記載しなければいけません。
- 金融機関名
- 支店名
- 口座種類
- 口座番号
- 金額
たとえば、〇〇銀行△△支店 普通預金 口座番号××××××× 金額1,000,000円のように具体的に記述します。
複数の口座がある場合は、それぞれの口座について同様に記載してください。
現金の場合は、現金 500,000円のように記載します。
相続人間で分割する場合は、誰がどの口座や現金をどれだけ相続するかを明記しましょう。
不動産(一軒家)
一軒家の不動産を記載する際は、登記簿に記載されている情報を正確に転記します。
- 所在地
- 地番
- 地目
- 地積(面積)
- 家屋番号
- 種類
- 構造
- 床面積
たとえば、土地:〇〇県△△市××町1-2-3、地目:宅地、地積:200㎡、建物:〇〇県△△市××町1-2-3、家屋番号:4、種類:居宅、構造:木造2階建、床面積:1階80㎡、2階60㎡のように記述します。
相続人の中で、誰が相続するかを明記しましょう。
共有する場合は、各相続人の持分も記載します。
不動産(マンション)
マンションの記載方法は、一棟の建物の表示と専有部分の建物の表示を区別して記載します。
一棟の建物の表示に、記載する項目は以下の通りです。
- 所在地
- 建物の名称
- 構造
専有部分の建物の表示には、以下を記載します。
- 家屋番号
- 階数
- 床面積
たとえば、一棟の建物:〇〇県△△市××町1-2-3 △△マンション、鉄筋コンクリート造10階建、専有部分:家屋番号301、3階部分、床面積70㎡のように記述します。
敷地権がある場合は、その旨も記載してください。
また、相続人の中で誰が相続するかを明記します。
共有する場合は、各相続人の持分も記載しましょう。
不動産(共有財産)
共有財産の不動産を記載する際は、不動産の詳細を記載し、その後に各相続人の持分を明記します。
たとえば、土地:〇〇県△△市××町1-2-3、地目:宅地、地積:300㎡と記載した後、Aが2分の1、Bが4分の1、Cが4分の1の割合で共有すると記述します。
建物の場合も同様に、建物の詳細を記載した後、共有の割合を明記しましょう。
共有者間で使用方法や管理方法について取り決めがある場合は、その内容も記載するのが望ましいです。
共有財産の相続では、相続人間で話し合いを重ね、公平な分割方法を決定してください。
配偶者居住権
配偶者居住権を設定する場合は、遺産分割協議書にその旨を明記します。
たとえば、配偶者〇〇に対し、以下の不動産について配偶者居住権を設定すると記載し、対象となる不動産の詳細を記述する形です。
配偶者居住権の存続期間や、その他の条件についても明確に記載します。
配偶者居住権の存続期間は配偶者の終身とする、配偶者は当該不動産に居住し、使用収益することができるなどの内容を記述しましょう。
配偶者居住権は、2020年4月(令和2年)から導入された制度です。
配偶者の居住権を保護しつつ、他の相続人の権利も考慮した柔軟な遺産分割を可能にします。
ただし、設定には専門知識が必要なため、弁護士や司法書士への相談が最適です。
上場株式・有価証券
上場株式や有価証券を記載する際は、銘柄名、株数または額面、評価額を明確に記載します。
たとえば、〇〇株式会社 普通株式 100株 評価額500,000円といったように具体的に記述しなければいけません。
複数の銘柄がある場合は、それぞれを同様に記載します。
相続人間で分割する場合は、誰がどの株式をどれだけ相続するかを明記してください。
評価額は、原則として被相続人の死亡日の終値を使用します。
ゴルフ会員権
ゴルフ会員権を記載する際は、以下を記載します。
- ゴルフ場の名称
- 会員権の種類
- 会員番号
- 評価額
たとえば、〇〇カントリークラブ 正会員権 会員番号××× 評価額3,000,000円のように具体的に記述してください。
複数のゴルフ会員権がある場合は、それぞれを同様に記載します。
相続人間で分割する場合は、誰がどの会員権を相続するかを明記しましょう。
評価額は一般的に相続税評価額を使用しますが、実勢価格との差が大きい場合は注意が必要です。
葬式費用・債務
葬式費用や被相続人の債務を記載する際は、内容と金額を明確に記載します。
たとえば、葬式費用 1,500,000円、〇〇銀行借入金 残高2,000,000円といったように具体的に記述しなければいけません。
また、これらの費用や債務を誰が負担するかも明記します。
葬式費用は相続人AとBが均等に負担する、借入金はCが全額を負担するなどです。
費用は相続人の間で公平に分担するのが一般的ですが、状況に応じて決定します。
なお、債務は相続税の計算上、相続財産から控除できる場合があります。
これらの内容は相続税申告にも影響するため、正確な記載と相続人全員の合意が必要です。
名義財産
名義財産とは、被相続人名義になっているものの実質的には他人の所有物である財産です。
遺産分割協議書に記載する際は、その旨を明確に記述します。
たとえば、〇〇銀行△△支店 普通預金 口座番号××× 残高1,000,000円は、実質的に△△の所有物であり、相続財産には含まれない、といった形です。
また、名義財産を相続財産から除外する理由や経緯についても、簡潔に記載することが望ましいです。
相続人全員がこの事実を認識し、合意を示すためには慎重な記載が欠かせません。
代償分割
代償分割とは、相続財産を均等に分けるのが難しい場合に、財産を多く相続する人が他の相続人に金銭などで補填する方法です。
遺産分割協議書に記載する際は、誰が誰にいくら支払うかを明確に記述します。
たとえば、Aは不動産を相続し、BとCにそれぞれ5,000,000円を代償金として支払うのように記載します。
また、代償金の支払い方法や期限についても明記するのが望ましいです。
換価分割
換価分割とは、相続財産を売却して現金化し、代金を相続人間で分配する方法です。
遺産分割協議書に記載する際は、どの財産を換価するか、その方法、分配方法を明確に記述します。
たとえば、被相続人所有の〇〇株式会社株式100株を売却し、その売却代金を相続人A、B、Cで均等に分配するのように記載します。
また、換価の時期や方法、売却後の分配方法についても具体的に記述するのが望ましいです。
遺産分割協議書が必要なケース
ここでは、遺産分割協議書が必要なケースを解説します。
遺言書がなく相続人で遺産の分割を決める場合
遺言書がない場合は、相続人全員で話し合って遺産の分割方法を決定しなければいけません。
この合意内容を記録するのが、遺産分割協議書です。
法定相続分と異なる分割を行う場合や、特定の相続人に特定の財産を相続させたい場合に必要です。
たとえば、長男が家業を継ぐため自宅と事業用資産を相続し、他の相続人には預貯金を分配するといったケースが該当します。
財産の名義変更が必要な場合
相続財産の名義変更には、遺産分割協議書が必要になる場合が多くあります。
特に、不動産や預貯金、株式、自動車など、被相続人名義の財産を相続人の名義に変更する際に、金融機関や関係機関から提出を求められます。
たとえば、不動産の相続登記を行う際には、法務局に遺産分割協議書を提出しなければいけません。
預貯金の払い戻しや名義変更の際も、金融機関に遺産分割協議書の提出が求められます。
株式の名義変更や、自動車の所有者変更手続でも同様です。
遺産分割協議書が不要なケース
ここでは、遺産分割協議書が不要なケースを詳しく解説します。
相続人が一人のみの場合
相続人が一人のみの場合は、遺産分割協議書は不要です。
遺産分割協議書は、遺産の分け方について記載した書類となるため、相続人が一人しかいない場合は作成する必要はありません。
たとえば、被相続人の配偶者が他界しており、子どもが一人のみの場合などが挙げられます。
遺言書の内容通りに遺産分割する場合
遺言書の内容通りに遺産分割する場合も、遺産分割協議書は不要です。
ただし、相続人間で話し合った結果、遺言書の内容通りに遺産分割しない場合は遺産分割協議書の作成が必要になります。
また、遺言書に記載されていない財産があった場合、遺産分割協議を行い、遺産分割協議書の作成が必要です。
法定相続分通りに遺産分割する場合
法定相続分通りに遺産分割する場合は、原則として遺産分割協議書は不要です。
法定相続分とは、民法で定められた相続人ごとの相続割合です。
この場合、戸籍謄本など相続人の関係を証明する書類があれば、手続を進められます。
ただし、金融機関や関係機関によっては、法定相続分通りの分割であっても遺産分割協議書の提出を求められる場合があります。
遺産分割協議書の主な提出先
ここでは、遺産分割協議書の主な提出先を詳しく解説します。
税務署
税務署への遺産分割協議書の提出は、主に相続税の申告時に必要です。
相続税の申告は、原則として相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に行わなければいけません。
提出する際は、遺産分割協議書の原本または原本証明付きの写しが求められます。
また、相続人全員の印鑑証明書や、被相続人の戸籍謄本なども併せて提出が必要です。
法務局
法務局への遺産分割協議書の提出は、主に不動産の相続登記を行う際に必要です。
提出する際は、相続人全員の印鑑証明書や被相続人の戸籍謄本、不動産の登記事項証明書なども併せて提出しなければいけません。
金融機関
金融機関への遺産分割協議書の提出は、主に預貯金の払い戻しや名義変更の際に必要です。
たとえば、被相続人名義の預貯金を相続人が引き出したり、名義を変更したりする場合が挙げられます。
提出する際は、相続人全員の印鑑証明書や被相続人の戸籍謄本、死亡診断書なども併せて提出が必要です。
運輸支局
運輸支局への遺産分割協議書の提出は、主に自動車の所有者変更手続の際に必要です。
運輸支局は相続人の権利を確認し、適切な手続を行います。
提出する際は、相続人全員の印鑑証明書や被相続人の戸籍謄本、自動車検査証なども併せて提出しなければいけません。
証券会社
証券会社への遺産分割協議書の提出は、主に株式や投資信託などの有価証券の名義変更の際に必要です。
提出する際は、相続人全員の印鑑証明書や被相続人の戸籍謄本、株券や投資信託の受益証券なども併せて提出する必要があります。
まとめ
遺産分割協議書は、相続手続をスムーズに進めるために欠かせない書類です。
作成方法や必要な項目、提出先について理解すれば、相続に関する煩わしさを軽減し、故人の遺志を尊重した財産分割を実現できます。
しかし、相続に関する法律や手続は複雑なため、専門知識が必要なシーンが多くなるでしょう。
そのような場合には、弁護士法人ひいらぎ法律事務所にご相談ください。
経験豊富な弁護士が相続に関するさまざまな問題に対応し、適切なアドバイスと支援を提供いたします。
相続に関する不安や疑問がある方は、お気軽にご相談ください。
最終更新日 2025年4月22日