遺産分割協議のやり方は?知っておきたいポイントやトラブルが起きやすい状況を解説

最終更新日 2025年4月22日
相続が開始すると、遺産分割協議を行う必要があります。
遺産分割協議は、相続人全員で話し合いを行い、遺産の分け方を決めるプロセスです。
適切に進めないと、相続人間でトラブルが発生し、相続税の申告が遅れる可能性があります。
この記事では、遺産分割協議のやり方や知っておくべきポイント、トラブルが起きやすい状況について詳しく解説します。
遺産分割協議のやり方で困っている方は、ぜひ参考にしてみてください。
遺産分割協議とは
遺産分割協議は、相続人全員で話し合いを行い、遺産の分け方を決めるプロセスです。
被相続人の死亡後、相続人が複数いる場合に行われます。
法定相続分通りに分ける必要はなく、相続人全員の合意があれば自由に分割できるのが特徴です。
ただし、協議が整わない場合は、家庭裁判所での調停や審判に移行するケースもあります。
遺産分割協議は、相続税の申告や相続登記などの手続を進めるうえで欠かせない役割を果たします。
円滑な相続を実現するためには、適切な進め方を理解しておかなければいけません。
遺産分割協議のやり方・手順
ここでは、遺産分割協議のやり方と手順を詳しく解説します。
遺言の有無を調査
遺産分割協議の第一歩は、遺言の有無を調査することです。
遺言があれば、原則として内容に従って遺産を分割します。
遺言書は、自宅や金融機関の貸金庫などに保管されているケースが多いため、該当する場所を確認しましょう。
また、法務局で自筆証書遺言の保管制度を利用している可能性もあるため、確認が必要です。
遺言が見つからない場合は、公正証書遺言の有無を公証役場に問い合わせることもできます。
遺言がない場合は、相続人全員での話し合いによる遺産分割協議が必要です。
法定相続人の調査
法定相続人の調査は、遺産分割協議を行ううえで欠かせないステップです。
戸籍謄本を取得し、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍を確認します。
これにより、配偶者、子、孫、父母、兄弟姉妹などの法定相続人を特定できます。
相続の順位や割合は民法で定められており、正確に把握しなければいけません。
相続人のなかには養子や認知された子がいる場合もあるため、注意深く調査する必要があります。
法定相続人を見落とすと、後々のトラブルに発展する可能性があるため、慎重に進めましょう。
相続財産の調査
相続財産の調査は、遺産分割協議の基礎となる作業です。
被相続人が所有していた、あらゆる資産を洗い出します。
- 不動産
- 預貯金
- 有価証券
- 生命保険
- 自動車
- 貴金属
不動産は法務局で登記事項証明書を取得し、預貯金は金融機関に残高証明書を請求します。
借金やローンなどの債務も相続の対象になるため、併せて調査しましょう。
注意すべきは、相続人全員で情報を共有し、漏れがないよう確認することです。
正確な財産調査は、公平な遺産分割と円滑な相続手続の基盤になります。
相続財産を一覧にした財産目録を作成
相続財産の調査が完了したら、財産目録を作成します。
財産目録は、被相続人が所有していたすべての資産と負債を一覧にしたものです。
主な項目は、以下が挙げられます。
- 不動産
- 預貯金
- 有価証券
- 生命保険
- 動産
- 債務
不動産は所在地や面積、預貯金は金融機関名や口座番号、有価証券は銘柄や数量などを明記します。
財産の評価額も可能な限り記載しておくと、後の遺産分割協議がスムーズに進みます。
財産目録は相続人全員で確認し、漏れや誤りがないか十分にチェックしましょう。
相続人で話し合う(遺産分割協議)
遺産分割協議では、相続人全員が集まり、遺産の分割方法について話し合います。
各相続人の希望や事情を考慮しながら、誰がどの財産を相続するか決定するのが目的です。
法定相続分通りでなくても、全員の合意があれば自由に分割できます。
話し合いの場では、お互いの意見を尊重し、建設的な議論を心がけましょう。
意見の相違がある場合は、妥協点を探るなど柔軟な対応が求められます。
相続税の申告期限や相続登記の義務化なども考慮し、できるだけ早期に合意形成を目指すのがポイントです。
円滑な協議のために、専門家のアドバイスを受けるのも有効です。
遺産分割協議書の作成
遺産分割協議が整ったら、内容を遺産分割協議書にまとめます。
協議書には、以下を記載しなければいけません。
- 被相続人の氏名や死亡日
- 相続人全員の氏名と住所
- 各相続財産の内容と取得者
- 協議の日付
不動産や預貯金は、登記簿や通帳の記載通りに正確に表記します。
相続人全員が署名・押印し、印鑑証明書を添付してください。
また、相続人の人数分作成し、各自が保管します。
金融機関や法務局(登記所)への提出用も準備しましょう。
遺産分割協議を行う前に知っておきたいポイント
ここでは、遺産分割協議を行う前に知っておきたいポイントを詳しく解説します。
遺産分割協議書は作成しておくべき
遺産分割協議書は、相続手続を円滑に進めるうえで欠かせない書類です。
法的な義務はありませんが、作成しておくメリットは大きくなります。
後日のトラブルを防げるだけでなく、預貯金の解約や不動産の名義変更など、各種相続手続の際に必要となるでしょう。
作成する際は、以下を明確に記載します。
- 被相続人の情報
- 相続人全員の氏名
- 遺産の内容と分割方法
- 協議日
相続人全員が署名・押印し、印鑑証明書を添付すれば、有効な証拠書類になります。
将来の紛争リスクを減らし、スムーズな相続を実現するためにも、遺産分割協議書は作成しておきましょう。
連絡の取れない相続人がいた場合は不在者財産管理人を選任する
相続人の中に連絡が取れない人がいる場合は、遺産分割協議の進行が困難です。
このような状況では、不在者財産管理人の選任が解決策になります。
不在者財産管理人は、家庭裁判所に申し立てて選任してもらうのが一般的です。
選任された管理人は、不在者である相続人に代わって遺産分割協議に参加し、財産の管理や処分を行います。
これにより、他の相続人との協議や必要な手続の進行が可能です。
不在者の利益を守りつつ、遺産分割を適切に進められるため、連絡が取れない相続人がいる場合は不在者財産管理人の選任を検討しましょう。
判断能力が不十分な相続人がいる場合は無効になる可能性がある
判断能力が不十分な相続人がいる場合は、遺産分割協議の有効性に問題が生じる可能性があります。
特に、認知症や精神疾患などにより、協議の内容を十分に理解できない状態の相続人が参加していると、無効になる可能性は高いといえるでしょう。
このような場合、成年後見人や保佐人、補助人などの法定代理人を選任し、代理人が遺産分割協議に参加しなければいけません。
なお、法定代理人の選任には、家庭裁判所への申立てが必要です。
判断能力が不十分な相続人の権利を守りつつ、有効な遺産分割を行うためには、専門家のアドバイスを受けながら適切に対応するべきです。
未成年の相続人には特別代理人を選任する
未成年者が相続人に含まれる場合は、遺産分割協議に特別な配慮が必要です。
通常は、未成年者の法定代理人である親権者が代わりに協議に参加します。
しかし、親権者自身も相続人の場合は、利益相反の問題が生じます。
このような状況では、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てなければいけません。
特別代理人は、未成年者の利益を守るために遺産分割協議に参加します。
複数の未成年相続人がいる場合は、それぞれに別の特別代理人が必要になるケースもあるでしょう。
未成年者の権利を守りつつ、有効な遺産分割を行うには、特別代理人の選任を適切に行うべきです。
遺産分割協議のやり直しは原則できない
遺産分割協議が成立し、協議書が作成された後は、原則としてやり直しはできません。
一度合意した内容を安易に変更できてしまうと、法的安定性が損なわれるためです。
ただし、例外として協議のやり直しが認められる場合もあります。
たとえば、協議の際に詐欺や強迫があった、錯誤があった、新たな遺産が発見された場合などです。
また、相続人全員が合意すれば、再度協議をやり直せます。
しかし、これらの例外的なケースでも、やり直しには複雑な手続が必要です。
そのため、最初の遺産分割協議を慎重に進め、十分な検討を行わなければいけません。
相続税の申告期限に注意が必要
遺産分割協議には法律上の期限はありませんが、相続税の申告期限には注意が必要です。
被相続人の死亡を知った日の翌日から、10ヶ月以内に相続税の申告を行わなければいけません。
期限までに協議が整わない場合は、法定相続分で申告する必要があります。
その結果、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例が適用できず、本来より多額の相続税を納付する可能性があるため注意が必要です。
また、申告後に遺産分割が成立した場合は、修正申告や更正の請求が必要になり、手続が煩雑になります。
遺産分割協議でトラブルが起きやすい状況
ここでは、遺産分割協議でトラブルが起きやすい状況を詳しく解説します。
財産に土地や不動産がある
遺産に土地や不動産が含まれる場合は、遺産分割協議でトラブルが起きやすくなります。
不動産は高額で分割しにくい財産であり、相続人の間で取得希望が重なりやすいためです。
また、不動産の評価額や将来的な価値の見通しについて意見が分かれる可能性があるでしょう。
居住用不動産の場合、現在の居住者と他の相続人との間で利害が対立するケースも珍しくありません。
相続税の申告における小規模宅地等の特例適用の問題も、協議を複雑にする要因です。
協議後に新たな財産が見つかった
遺産分割協議が成立した後に新たな財産が見つかると、トラブルに発展する可能性があります。
たとえば、被相続人名義の預金口座や有価証券、知られていなかった不動産などが発見されるケースです。
このような状況では、すでに成立した遺産分割協議をどう扱うかが問題になります。
原則として一度成立した遺産分割協議は覆せませんが、新たに見つかった財産については別途協議が必要です。
相続人間で公平性を保つため、既存の協議内容の見直しを求める声が上がるケースもあり、再協議の必要性が生じる可能性があります。
家業がある
被相続人が営んでいた家業がある場合は、遺産分割協議が複雑化しやすいです。
事業承継の問題が絡むため、財産分割以上の難しさがあります。
特に、事業を継続する相続人と、現金や他の財産を希望する相続人との間で利害が対立するケースがあります。
事業用資産の評価や、のれんの扱いなどについても意見が分かれる可能性があるでしょう。
また、事業承継に伴う債務の引き継ぎや、従業員の雇用問題なども考慮しなければいけないため、協議の難易度が上がります。
内縁の配偶者がいる
被相続人に内縁の配偶者がいる場合は、遺産分割協議でトラブルが生じやすいです。
法律上、内縁の配偶者には相続権がありませんが、長年の貢献や生活実態を考慮すると、一定の権利を認めるべきという意見が出てきます。
そのため、法定相続人である親族と内縁の配偶者との間で、遺産の分配をめぐって対立が起こる可能性があります。
また、内縁関係の認定自体が争点になるケースも珍しくありません。このような状況では、感情的な対立が生じやすく、協議が難航しやすいです。
未成年の相続人がいる
相続人に未成年者が含まれる場合は、遺産分割協議を慎重に進めなければいけません。
未成年者の権利を適切に保護しつつ、公平な遺産分割を行うことが求められます。
通常は、未成年者の法定代理人である親権者が協議に参加しますが、親権者自身も相続人の場合は利益相反の問題が生じます。
このような場合、特別代理人の選任が必要となるため、手続が複雑化しやすいでしょう。
また、未成年者の将来の利益を考慮した遺産分割が求められます。したがって、他の相続人との意見調整が難しくなる可能性があります。
相続人以外が参加している
遺産分割協議に相続人以外の人物が参加している場合は、トラブルのリスクが高まります。
たとえば、被相続人の介護をしていた親族や事実上の養子など、法定相続人ではないものの遺産分割に利害関係がある人物が含まれるケースがあります。
これらの人々の主張や要求は、法定相続人との間で対立を生む可能性が高いです。
また、相続人の代理人として弁護士が参加する場合もありますが、これにより協議の雰囲気が硬くなったり、法的な議論が複雑化したりするケースがあります。
まとめ
遺産分割協議は、相続人全員の合意を得て遺産を分割するプロセスです。
しかし、さまざまな状況でトラブルが発生する可能性があります。
特に、不動産や家業の承継、内縁の配偶者の問題、未成年相続人の保護など、複雑な要素が絡む場合は注意が必要です。
また、相続税の申告期限を意識しながら協議を進める点も重要です。
これらの課題に適切に対応するためには、専門家のサポートを受けるのが最善といえます。
弁護士法人ひいらぎ法律事務所では、経験豊富な弁護士が遺産分割協議のサポートを行っています。
複雑な相続案件や、トラブルの可能性がある場合は、早めに相談しましょう。
適切なアドバイスと支援を受ければ、円滑な遺産分割と相続人全員が納得できる結果を得られます。
最終更新日 2025年4月22日