葬儀費用は遺産から差し引くことができるか?

「葬儀費用を遺産から差し引くことができるのだろうか」とお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ここでは葬儀費用、葬式費用とはどのようなものであり、葬式費用を負担する人は誰なのかについて解説します。

葬式費用とは

葬式費用の範囲について、「遺産分割事件の処理をめぐる諸問題」(司法研修所編、法曹会)は、「被相続人と家族等との生活状況、その地方における慣習条理により個別具体的に定まる。」としつつも、「一つの考え方を示すと、葬式費用の範囲としては、棺柩その他の祭具、葬式場設営、読経、火葬の費用、墓標の費用、通夜、告別式の参列者の飲食代、納骨代といったものがその中に含まれるが、墓地の代価、四十九日の法要の費用、葬儀後の見舞客の飲食代については範囲外と考える。」としていますので、家庭裁判所の実務はこのような理解のもとで運用されていると言ってよいでしょう。

葬式費用の負担者

葬式費用は遺産から差し引くことができるか?2葬式費用を誰が負担すべきかについては、①全相続人共同負担説、②相続財産負担説、③喪主負担説の三種類の学説が存在し、裁判例も分かれています(最高裁判所の判例は存在せず、高等裁判所のレベルでも判断が一致していません)。

なお、被相続人は遺言により祭祀承継者を指定することができますが、祭祀と葬式は別個の概念ですので、祭祀承継者に葬式費用を負担させるわけにはいきません。

この点について、遺言により祭祀承継者に指定された者は当然に葬式費用の負担者とはならないとする裁判例(東京高等裁判所昭和44年2月26日決定)があります。

このように葬式費用を誰が負担すべきかについては決定的な考え方が存在せず裁判例も分かれている状況にあるわけですが、家庭裁判所の実務においては、どのような状況であっても何らかの指針に基づいて遺産分割調停や審判を進行させなければなりません。

この点、家庭裁判所の実務の指針とされている書籍が上述した「遺産分割事件の処理をめぐる諸問題」(司法研修所編、法曹会)になります。

同書は「葬式費用の負担の問題は、民事訴訟で解決されるのが原則である。」と明言していることから、家庭裁判所の実務では、遺産分割調停や審判による解決は想定されていないものと考えられます。

遺産分割との関係で葬式費用が問題になる場合としては、①葬式費用を遺産から支払った相続人がいるとき、②葬式費用を遺産ではなく固有財産から支払った相続人が遺産分割で清算を求めたときが考えられます。

①については、民法906条の2ができるまでは、遺産から逸失した葬式費用相当額の財産は遺産分割の対象財産とは言えず、遺産分割手続ではなく民事訴訟(損害賠償請求訴訟)での解決を目指すしかないものの、非常識に過大な支出でない限り他の相続人が勝訴することは難しいであろうと考えられていました。

しかし、「遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても」「当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。」と規定する民法906条の2ができたことから、葬式費用を遺産から支払った相続人を除く全ての相続人が同意すれば、その支出をなかったものとして遺産分割をすることができます(葬式費用を遺産から支払った相続人は、葬式費用相当額だけ減らされた遺産しか取得できないことになります)。

②については、遺産分割手続での清算を求める主張を認める裁判例も存在するものの、排斥する裁判例が多いと言われています。

葬式が行われたからには、葬儀の具体的内容を決め、葬儀業者や僧侶と契約した葬儀主宰者が必ず存在します。

被相続人の財産は被相続人の死亡と同時に相続人全員の共有財産になっていますので、葬儀主宰者が相続人全員の共有財産である遺産から葬式費用を支出することを希望するのであれば、葬儀の具体的内容や費用について独断で決めるのではなく、他の相続人全員の同意を得ておくべきだったのであり、独断で決めたからには自己の責任と計算において葬儀業者や僧侶と契約をしたと評価されてもやむを得ないのではないでしょうか。

ではどうする?

葬式費用は遺産から差し引くことができるか?3葬式をどのような規模・内容で執り行うかについては様々な考え方が存在します。

昔では考えられませんでしたが、価値観が多様化する現在、参列者を全く呼ばない家族葬を選択する例も珍しくありませんし、それを奇異に思う人も少なくなりました。

相続人の中で葬式の規模や内容についての認識が大きく異なる可能性がある以上、葬儀主宰者が葬式費用を遺産から支出することを希望するのであれば、葬儀の規模や内容について他の相続人と十分な意思疎通を図り、遺産から支出することの同意を得てから葬儀業者や僧侶と契約をすべきであると言えます。

逆に言えば、これを怠ると、葬儀費用をめぐって他の相続人と紛争が発生した場合には、裁判所から「自己の責任と計算において葬儀業者や僧侶と契約をした」との判断が示されるリスクがあります。

まとめ

このように、葬式費用を遺産から支出する際には上記のような注意点があります。

相続についてお困りのときは、当事務所までお気軽にご相談ください。

最終更新日 2024年7月6日

この記事の監修者
弁護士・監修者
弁護士法人ひいらぎ法律事務所
代表 社員 弁護士 増田 浩之
東京大学経済学部卒。姫路で家事事件に注力10年以上。神戸家庭裁判所姫路支部家事調停委員。FP1級。

最終更新日 2024年7月6日

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