使用貸借は相続の対象外?|使用貸借の基礎知識を解説
「相続財産の中にタダで借りているものがあるけど、そのまま借り続けてもいいのだろうか」とお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ここでは使用貸借の基礎知識について、賃貸借と比較しながら解説します。
使用貸借とは?
使用貸借とは、目的物を無償で使用収益することです(民法593条)。
これに対し、目的物を有償で使用収益すると賃貸借となります。
これを借主の側から見ると、借主がタダで借りることができる権利が「使用借権」(「しようがりけん」と読みます)であり、借主がお金を払って借りることができる権利が「賃借権」(「ちんじゃくけん」と読みます)です。
借主が死亡するとどうなる?
借主が死亡すると、使用借権はその時点で消滅します(民法597条3項)。
そのため、借主の死亡後も借主の相続人との間で使用貸借関係を継続するという特約がない限り、借主の相続人が使用借権を相続することはなく、借りていたものは速やかに貸主に返還しなければなりません。
これに対し、賃借権は借主の死亡によっては消滅しません。
なぜなら、お金を払って借りていることから賃借権には財産的価値があり、一身専属権であるとも言えないからです。
そのため、借主の賃借権は借主の死亡によって借主の相続人全員による準共有状態になり(所有権以外の財産権を共有することを「準共有」と言います)、遺産分割の対象になります。
なお、居住用建物の賃借権(借家権)については、相続の対象にならないとの見解もありますが、判例は相続の対象になることを認めています(ただし、最高裁判所平成2年10月18日判決は、公営住宅を使用する権利については当然には相続の対象にならないと判断していますので、公営住宅を使用する権利を相続することができるかどうかは条例や利用規約等の定めによることになります)。
貸主が死亡するとどうなる?
使用貸借であるか賃貸借であるかにかかわらず、貸主の貸す債務は貸主の相続人に当然に承継されます。
したがって、貸主の死亡が契約の終了条件になっていない限り、貸主の死亡によって使用借権や賃借権が消滅することはありません。
ただ、相続税を計算する際には注意が必要です。
なぜなら、前述したとおり、使用借権はタダで借りる権利ですので、賃借権と異なり財産的価値がないからです。
そのため、相続税を計算する際も、使用貸借契約によって貸している土地は自用地(使用借権が設定されていない更地)として評価されますし、使用借権が建物所有目的であったとしても借地権の評価額はゼロになります(昭和48年11月1日直資2-189)。
また、借主が相続人の1人であるときは、遺産分割の場面で特別な配慮がなされます。
例えば、死亡した父が長男に対し、父名義の土地建物を無償で貸していたというケースで考えてみます。
この場合には、長男の使用借権は貸主である父の死亡によっては消滅しないため、長男は父の死亡後も父名義の土地建物を使用借権に基づいて無償で使用することができます。
しかし、長男は自身の使用借権を第三者に対抗する(権利を主張する)ことはできないとはいえ、他の相続人には主張することはできますし、他人が占有している土地建物は換価しにくいことから、長男はその土地建物を事実上占有することができます。
その結果、当該土地建物は、使用借権相当額だけ減価したといえますので、その減価額が長男の特別受益として扱われることになります。
減価額の金銭評価は非常に難しいのですが、通常は更地価格の1~3割の範囲内で決定されているようです。
まとめ
このように、一口に使用貸借の相続と言っても、被相続人が貸主なのか借主なのかによって検討すべき点が異なります。
使用貸借の相続についてお困りのときは、当事務所までお気軽にご相談ください。
最終更新日 2024年9月15日
最終更新日 2024年9月15日