令和元年7月の相続法改正で変わった8つのポイントをわかりやすく解説

相続法改正ポイント説明

令和元年7月1日に民法の相続編が一部改正されました。

この改正で変わったポイントは8つあります。

以下1つずつ改正ポイントについて解説していきます。

①配偶者居住権の新設

相続法改正で変わったポイント8つをわかりやすいイラストで簡単理解2配偶者居住権はこれまでの民法にはなかったもので、改正により新たに作られた規定です。

まず、改正前に問題となっていた背景からみていくことにしましょう。

被相続人A、妻B、息子Cがいる場合で説明します。

相続財産は、AB居住していた不動産(4000万円)、預貯金(2000万円)とします。

妻Bとしては、ずっと居住してきた不動産を取得したいところですが、相続財産の総額は6000万円ですから、BCがそれぞれ法定相続分割合で分割すると3000万円ずつになります。

ここでBが不動産を取得してCが預貯金を取得した場合に2つの問題が生じます。

1つは、BはCに対して足りない1000万円を渡して3000万円ずつになるようにしなければならないのですが、高齢で年金生活をしているBに1000万円を現金で用意できるか、という点です。

もう1つは、不動産を取得したとしても売却しない限りは現金にならず、預貯金が入らないため今後の生活に不安がある、という点です。

もちろん、BCが仲の良い親子であってCが「僕は仕事をしてるから生活に困らないし、お母さんに自宅も預貯金もあげるよ」とか「僕は1000万円だけでいいから不動産と1000万円はお母さんにあげるよ」ということで子供が譲るケースも多いと思います。

相続は必ずしも法定相続分割合でなく、話し合い(遺産分割協議)で自由に財産の承継方法を決めることができます。

ただ、上の例でBとCが血縁関係にない場合があります。

CがAの前妻との子で、離婚後にAがBと再婚した場合はBCに血縁関係がなく養子縁組もしていないため親子関係もないというケースも少なくありません。

最終的にはいずれのケースでもBCの相性の問題も関わってはきますが、血縁関係がそもそもない場合であればCがBに自分の相続分を譲るかどうかが微妙で、実際には結局Bが自宅を売却して現金に換えて調整するなど妻Bが自宅を出ていくことを余儀なくされていました。

そこで、配偶者居住権という新しい制度を設け、所有権とは別に配偶者居住権という権利の評価額分を相続して配偶者が生涯住み続けられる仕組みを作りました。

もう少しわかりやすく説明します。

上記の例で、不動産の所有権の評価額が4000万円ですが、これとは別に配偶者居住権の評価を算出します。

仮にこの場合の配偶者居住権が1500万円とした場合、4000万円からこの配偶者居住権の評価を引いた2500万円の所有権をCが相続し、1500万円の配偶者居住権をBが相続します。

後は残りの預貯金が2000万円ですから、全体がそれぞれ2分の1になるようにすると、

B→配偶者居住権1500万円+預貯金1500万円=3000万円

C→不動産所有権2500万円+預貯金500万円=3000万円

となりますから、配偶者Bは亡くなるまでこの不動産に居住し続けることができかつ生活費も1500万円が手元に残ります。

配偶者居住権は、権利の主張を他者に対してできるように登記手続きもできるように規定されました。

また配偶者居住権は、遺言、遺産分割協議、裁判所の審判のいずれかをもって設定します。

遺産分割協議で設定する場合は話し合いがまとまるまで居住不動産から追い出されないように配偶者短期居住権という一時的に居住する権利を認める制度もできましたが、この権利は一時的な救済措置ですから相続財産評価額の分割とは関係ありません。

②特別受益の持戻し免除規定

特別受益の持戻しとは、被相続人が特定の相続人に対して生前贈与をした場合や特別に資金援助をした場合に本来相続財産に含まれていたはずの財産が先に特定の相続人が受け取るという不公平を調整することをいいます。

被相続人Aに妻Bと子C、Dがいて、相続財産が2000万円であるとして、生前に妻Bが500万円の贈与を受けていた場合で説明します。

いったん死亡時の財産額に贈与した500万円を加えた2500万円を相続財産とします。

これを法定相続分割合で分けるとB1250万円、C625万円、D625万円となりますが、この額のBの相続分からすでにもらった500万円を引きB750万円、C625万円、D625万円として分割し不公平を調整するというものです。

この持戻し計算は被相続人が遺言等で「持戻しをしないこと」という意思表示をすればこの計算はしない旨の規定になっています。

ところが、一般的にはこれを把握するのは簡単ではないため「婚姻期間が20年以上の夫婦が配偶者に居住不動産を贈与した場合には遺言等での意思表示がなくても、相続時に持戻し計算はしないことの意思表示を含んでいるものとする」ということを規定しました。

こちらも配偶者を配慮した規定です。

③預貯金の仮払い制度

被相続人が死亡し銀行などがこれを把握すると銀行口座は凍結して動かせなくなります。

これでは遺産分割協議が成立するまでは被相続人の葬儀費用などの当面必要なお金が引き出せないという問題があり、今回の改正により「預貯金額×3分の1×法定相続分」に相当する額を相続人が単独で引き出せるとい規定を設けたのです。

なお、この単独で引き出したお金はその相続人が分割取得したものとして扱われます。

④自筆証書遺言の作成について

自筆証書遺言は必ず自筆で作成しなければならないのが民法の規定です。

パソコンなどで作成した場合は無効となります。

今回の改正では、本文が自筆でなければならないことは変りませんが、別に財産目録を作成する場合にはその財産目録はパソコンで作成してもよいという規定になりました。

すなわち本文で「私は別紙財産目録記載の財産を長男に相続させる」と自筆で書き、別紙をパソコンで作成してもよいことになりました。

なお、別紙には氏名を自署し押印します。

⑤法務局による自筆証書遺言保管制度

相続法改正で変わったポイント8つをわかりやすいイラストで簡単理解3自筆証書遺言は「記載方法が法律どおりでなく無効になる」「紛失の恐れがある」という問題がありましたが、今回の改正で法務局が自筆証書遺言の形式的な書き方をチェックし、被相続人の死亡後50年経過まで原本を、150年経過までデータを保管してもらえるため紛失の恐れもなくなりました。

自筆証書遺言は相続開始後に遺言に基づく手続きをするには家庭裁判所の検認手続を受けなければならないところ、この保管制度を利用した遺言の場合には不要となります。

⑥遺留分制度の見直し

遺留分とは、法定相続人に最低限保証された相続権です。ですから、他の相続人や他人にすべての財産を渡して亡くなった場合でも最低限の遺留分は返還請求できることになっています。

改正前は「遺留分を侵害した財産の目的物の返還請求ができる」という内容であったのに対し、改正法では「侵害した金銭の支払い請求ができる」という内容になったため、財産(物)で返還しなくてもよくなり共有状態になることを防ぐ規定に変わりました。

さらに、法定相続人に対してされた生前贈与はどこまでも遡って遺留分の返還請求ができていましたが、「死亡から10年前にした贈与」に限られることになりました。

⑦相続の効力について

(1)相続と登記や登録

例を挙げて説明します。

Aの相続人がBCである場合に、Aの不動産を遺産分割によりBが単独で相続した場合、その旨の相続登記手続きをしないままにしていると、Cが法定相続分BC各2分の1ずつで登記した後、自分の持分2分の1をKという人に売却してKが2分の1で自分名義の登記手続きをした場合にBが「私が遺産分割で単独で相続したのだから、あなたの2分の1は無効です」と主張できるか、という点です。

この点を改正法は「自分の法定相続分を超える持分の取得を他人に主張するには対抗要件(登記や登録)が必要です」という内容にしました。

遺産分割協議をしたらすぐに登記や登録ができる財産はしておくようにしましょう。

(2)相続債権者について

遺産分割で「不動産を長男、預貯金を次男、被相続人の債務は長男がすべて負担する」と決定したとします。

この場合に被相続人の債権者が次男に対して債務の弁済を請求した時には「兄が債務は相続しましたから私は支払いません」と言えるかという点ですが、債権はこの遺産分割等の取り決めにかかわらず請求できることになっています。

しかし、今回の改正では「その取り決めについて債権者が承認した場合にはそれに従う」という規定にしました。

⑧寄与分について

被相続人の生前にその財産形成に貢献した相続人や特別に療養看護に努めた相続人には他の相続人との不公平を調整するための寄与分を相続財産から評価して与えることが認められています。

改正法では、これまでこの寄与分は相続人に対して飲み認められていたものを相続人以外の者に対しても特別な貢献があった場合には「特別寄与料」の支払いを請求することができる旨を規定しました。

まとめ

今回は民法の相続法改正についての8つのポイントを説明してきました。

馴染みが薄い規定もあるかと思いますが、イメージだけでもしていただければ幸いです。

最終更新日 2024年7月6日

この記事の監修者
弁護士・監修者
弁護士法人ひいらぎ法律事務所
代表 社員 弁護士 増田 浩之
東京大学経済学部卒。姫路で家事事件に注力10年以上。神戸家庭裁判所姫路支部家事調停委員。FP1級。

最終更新日 2024年7月6日

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