遺産分割前に預貯金の払い戻しは可能か?その方法・限度額は?後の遺産分割でどう扱われるのか?
最終更新日 2024年7月6日
「遺産分割前に預貯金を払い戻したい」
葬儀費用等の工面のため、そうしたご希望をお持ちの方は多いようです。
ここでは、そうした疑問にお答えしたいと思います。
これまで
これまで、相続において預金口座の扱いは相当不便なものでした。
被相続人の口座から葬儀費用を引き出そうとしても、金融機関は本人以外からの請求では手続きに応じてもらえません。
また、死亡したことがわかると預金口座は凍結されて動かすことができなくなります。
これは、相続人の誰か一部の人の支払い請求に応じた後で、その後の遺産分割などにより他の相続人との紛争によりその払い戻しが問題になることを避けるためです。
遺産分割前であっても相続人全員からの請求があれば、その場合には相続人の同意があるため問題にはならず払い戻しに応じてもらえます。
ところが、相続人の関係が良くない場合には協力が得られずに手続きができないという問題がありました。
実際にそのような経験をされた方もおられるのではないでしょうか?
法改正による変更点
令和元年7月1日に民法が改正されました。
この改正により、相続人の一部の人の請求により払い戻しが可能になりました。
ただし、預貯金の総額を引き出せるわけではありません。
以下では、相続人の一部からの請求に引き出せる額についてみていきます。
引き出し可能額
相続人の1人が引き出すことのできる金額は以下の計算式により求めます。
「1人が引き出せる金額」=「相続開始時の被相続人の預貯金総額」×「3分の1」×「引き出しを請求する相続人の法定相続分割合」
ただし、1つの銀行から引き出すことのできる上限は150万円です。
例を挙げて説明します。
(相続関係)
被相続人 A
相続人 B(配偶者)
C(長男)
D(長女)
(預貯金)
M銀行 1500万円
N銀行 210万円
O銀行 600万円
この場合は、
M銀行から引き出しをする場合3000万円×3分の1=1000万円
N銀行から引き出しをする場合210万円×3分の1=70万円
O銀行から引き出しをする場合600万円×3分の1=200万円
ここで、各相続人の法定相続分割合を確認しておきます。
B 4分の2(2分の1)
C 4分の1
D 4分の1
このケースでCが単独で払い戻しをすることのできる額は、
M銀行 1000円×4分の1=250万円
N銀行 70万円×4分の1=17万5千円
O銀行 200万円×4分の1=50万円
となりますが、M銀行については上限の150万円を超えているため150万円になります。
手続きに必要な書類
相続人の1人からの払い戻し手続きに必要となる書類は次のとおりです。
①被相続人が出生から死亡までの戸籍謄本・除籍謄本・原戸籍謄本すべて
②相続人全員の現在の戸籍謄本
③払い戻しを請求する相続人の印鑑証明書
④払い戻しを請求する相続人の身分証明(運転免許証など)
①②は相続に関する手続きをする場合には他の手続きにも必要になる書類ですから、早めに管轄の役所に取り寄せ請求をしておくことをおすすめします。
特に①については、最後の本籍地に請求するだけでは不十分であり、転籍や新戸籍作成前に置いていた本籍地の役所に遡って請求することになり、郵送などでやりとりすることが多いため時間がかかります。
これらの書類を用意して各金融機関に払い戻し請求をしますが、その場ですぐに引き出せるわけではありません。
金融機関側で審査をして問題なければ連絡がくることになりますから、期間には余裕をもって準備するようにしてください。
家庭裁判所を通した払い戻し手続き
上述の払い戻し制度とは別の制度として、相続財産について家庭裁判所で遺産分割の調停・審判で行う場合に、各相続人が払い戻しを必要とする場合には、家庭裁判所に申し立てを行い、家庭裁判所が判断した額について払い戻しができるものとする制度があります。
この制度を利用する場合は、遺産分割調停・審判の申し立てられているケースに限られますが、民法で規定されている上述の払い戻し制度とは異なり払い戻し額の上限はなく、家庭裁判所の判断に委ねられることになります。
払い戻された財産の扱い
単独で金融機関から払い戻しを受けた財産については、請求した相続人が遺産分割として相続したものみなされますので、その後相続人全員で遺産について話し合う際には、払い戻された財産を除いて協議することになります。
まとめ
今回は、遺産分割前に被相続人の預貯金の払い戻し請求をする方法を説明しました。
改正により創設されたこの規定は、これまでの問題点をカバーしたものになります。
制度利用に際して法律関係に不安がある場合には弁護士に相談しながら進めるのがよいでしょう。
最終更新日 2024年7月6日