持戻し免除の意思表示とは?どのような場合に持戻し免除となるのか?

最終更新日 2024年6月30日
「持戻し免除って何?」
そうした疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は特別受益の持戻し免除の意思表示について解説していきたいと思います。
通常、特別受益は持ち戻す
では、次に上記条文に沿って具体例を挙げて持戻し計算をしてみます。
(相続関係)
被相続人 A
相続人 B(妻)
C(長男)
D(長女)
(相続開始時の財産総額)
1500万円
(特別受益の事実関係)
Dの生活資金として、5年前に500万円を贈与
まず、民法第903条1項に従って相続開始時の財産に特別受益の額を足します。(今回は借金などの債務はないものとします)
1500万円+500万円=2000万円
これを法定相続分割合に従って分割するとします。
B 2000万円×4分の2=1000万円
C 2000万円×4分の1=500万円
D 2000万円×4分の1=500万円
となりますが、実際には今この額はありませんから、存在するものとしてプラスした500万円をDの相続分から差し引きます。
500万円−500万円=0円
つまり、このケースではDが受け取る分はなくなるわけです。
相続時の財産額や特別受益の額次第ではこの最後に差し引く計算によってマイナスになることも考えられますが、その場合にはDは自分の財産で補填することまでは要せずにゼロになるというだけです。
そのことを規定したのが民法第903条第2項です。
持戻し免除の意思表示
さらに民法第903条第3項に「異なった意思表示」とあります。
これは、被相続人が「Dに渡した財産は、持戻しの計算をしないでやってほしい」という意思を示している場合には適用しないということです。
これを持戻し免除の意思表示といいます。
先ほどの事例で、もし持戻しを免除されていた場合にどのような相続分になるかを計算してみましょう。
B 1500万円×4分の2=750万円
C 1500万円×4分の1=375万円
D 1500万円×4分の1=375万円
となりますから、Bは250万円、Cは125万円が少なくなります。
黙示の持戻し免除
持戻し免除の意思表示は、遺言書などで行うことが多いと考えられますが、相続人に異議がなければ書面で行わなくてもよい場合もあるでしょう。
また、黙示の持戻し免除の意思表示がなされたと考えられる場合もあります。
例えば、過去の裁判例では、子供が実家を出ていかなければならなくなったために新住居の住宅資金を贈与したケースでは、特に積極的な持戻し免除の意思表示がないものの黙示の持戻しの意思表示があったものと認められた事例もあります。
配偶者への居住用不動産の贈与
民法第903条第4項は令和元年7月1日施行の改正民法で新たに追加された規定です。
①婚姻期間が20年以上の夫婦
②一方から他方配偶者への居住用不動産の贈与や遺贈
この2つの要件がある場合には、被相続人が持戻し意思表示がなくても持戻しの意思表示があったものと推定されます。
推定される、とは他の相続人が「そんな意図はなかったはず」と証明できる証拠を提示できない限りはそのように扱われるという意味です。
まとめ
今回は、特別受益があった場合の持戻しとその免除について解説してきました。
実際の遺産相続の場面では、今回の説明にあるような簡単な事例でない場合があるでしょうし、財産の評価も簡単なものばかりではないでしょう。
持戻しについて相続人間で話し合いが出ている場合などは弁護士に相談しながら進めるようにしましょう。
最終更新日 2024年6月30日