不動産を相続したときの名義変更(相続登記)手続きをわかりやすく解説
各所に不動産を管轄する法務局があり、そこで土地・建物ごとに「登記記録」を管理しています。
本記事では、この登記記録上の名義人が亡くなられた場合の相続人への名義変更について解説していきます。
登記簿謄本とは?
登記簿謄本は法務局の登記記録を証明書として発行されたものを指します。
登記記録は手書きで作成してファイルに綴じていたため、コンピュータでのデータ管理されている今でも「登記簿謄本」と呼ばれており、全国どこの法務局で誰でも取得できます。
たとえば、所有者の欄には住所、氏名が記載されており、銀行などから不動産を担保に融資を受けた場合には、どの金融機関からいくら借りて担保(抵当権など)がつけられているかがわかります。
これらの情報が誰でも見られるため、今の時代でいえば「個人情報の保護は?」と疑問を持たれる方も多いと思います。
個人情報については、法律は取り引きの安全を優先的に保護しています。
不動産を誰が所有していて、誰がそこにどんな権利を持っているかがわからなければ、安心して取り引きできません。
不動産登記法は、登記の申請には本人しか持ち得ない書類や情報の提供を求められます。
原則として司法書士という国家資格者が本人確認・意思確認をした上で登記申請を代理することが多いため、登記記録上の情報の信憑性は極めて高いものとなっています。
不動産の名義変更(相続登記)とは
相続が開始した場合の名義変更登記を一般的には「相続登記」と呼ばれています。
正確には「相続を原因とした所有権移転登記」ですが、今回は相続登記という言葉を用いて解説していきます。
相続が開始すると登記記録上の名義人は死者であるため、取り引きの主体となることはありません。
たとえ真の相続人であっても、売却して買い主に所有権移転登記をすることはできません。
その前提として、相続人名義への相続登記を完了させる必要があります。
売却するなどの予定がなければ相続登記をしなくても構いませんが、2024年4月1日より相続登記が義務化される法改正があるため、今後は続人名義への相続登記を完了させなければなりません。
また、2024年4月1日以前に開始した相続についても適用されるため、今のうちに相続登記をすることをおすすめします。
不動産の名義変更(相続登記)の手続き
不動産登記の手続きは、不動産登記法という特殊な法律に細かく規定されているため、一般的には理解しにくい部分もあります。
基本的には登記業務を専門とする司法書士に依頼するケースが多いかと思いますが、今は法務局のホームページに書類のひな型が提供されているため、正確に書類を集めてこのひな型に沿って作成すればご自身で申請することも可能です。
必要な書類
相続登記には、集めなければならない書類がたくさんあります。
こちらでは、相続登記の際に必要な書類を解説していきます。
① 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、除籍謄本、原戸籍
人は出生すると、原則として親などが戸主となっている戸籍に登録されます。
その後、戸主が別の本籍地に転籍したり、自分が婚姻したりするたびに新しい戸籍が作られます。
また、本籍地等に変更がなくても、法律による様式改製によっても新たな戸籍に作り変えられます。
これらの戸籍は、それぞれ「いつどのような理由で入籍し、いつどのような理由で転籍していったか」が記載されており、これを順にたどって、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍を集めます。
すべてを確認しなければ誰が相続人かを証明することができないため、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、除籍謄本、原戸籍が必要です。
戸籍全員が抜けると除籍謄本と呼ばれ、法律による改製直前のものなどを原戸籍と呼ばれます。
市区町村に請求する際は「こちらに存在する○○(被相続人)の戸籍すべてお願いします」と伝えればあるものをすべて出してくれます。
なお、郵送でも請求できるため、各市区町村のホームページで郵送方法を確認してください。
② 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
登記記録上の住所から死亡時の住所のつながりを証明するために提出します。
法務局では書類のみで同一人物か否かを判断します。
そのため、登記記録上の住所および氏名が一致しなければ登記ができません。
そのため、登記記録上の住所から住所を移転している場合には、そのすべてを証明する必要があります。
登記記録上から住所移転を一度もしていないか、または1度だけという場合には、住民票の除票だけで証明できます。
住民票の除票には、前住所の記載もされますから住所移転が1度だけであれば登記記録上の住所も記載されていることになります。
ところが、2回以上になりますと、戸籍の附票という書類を取得します。
戸籍の附票とは、ある本籍地にいる間に住所移転をするたびに戸籍の附票にその変遷がすべて記載されるため、本籍地を変えていなければ原則として戸籍の附票で住所のつながりを証明することができます。
③ 相続人全員の現在の戸籍謄本
相続人であることを証明するには少なくとも、被相続人の死亡日よりも長生きしていなければいけません。
そのため、現在の戸籍のみを提出すれば相続人であることの証明ができます。
記載内容が同じでも被相続人が死亡する日より前に取得した戸籍謄本では、そのことを証明できないため、発行日は被相続人の死亡日以降のものでなければならない点には注意が必要です。
④ 遺産分割協議書+相続人全員の印鑑証明書
法定相続分ではなく、相続人全員の話し合い(遺産分割協議)で不動産の取得者を決めた場合には、その決定内容を記載した「遺産分割協議書」に相続人全員が署名して、実印で押印します。
それが実印であることを証明するため印鑑証明書もあわせて添付します。
この印鑑証明書は、発行日から3ヶ月以内のものでなくても構いません。
遺産分割協議書には、相続人全員の署名押印を要しますから、一部を除いて作成された場合には登記ができません。
ただし、相続放棄した人や相続分を譲渡した人など、遺産分割協議に参加資格がない場合もあるため、そのような場合は別途そのことを証明する書類を提出します。
⑤ 不動産取得者の住民票
不動産登記法は相続登記に限らずすべての登記で、所有権の名義人となる人の住民票の提出を求めています。
所有権は相続において最も重要な権利であるため、架空人の登記名義を防ぐために住民票を求めて、その実在を確認するのです。
⑥ 不動産の評価証明書
不動産登記の申請は、登録免許税(印紙代)を支払う必要があります。
登録免許税は、登記の原因ごとに税率が決められており、不動産価格にその税率を掛けて計算します。
相続の場合の税率は、4/1,000です。不動産価格をわかりやすい例で1,000万円としますと、登録免許税は4万円になります。
不動産の評価証明書は、不動産所在地の市区町村役場で最新年度分を取得します。
または、固定資産納税通知書にも不動産価格が記載されているため保管されている場合はそれをコピーして提出しても構いません。
名義変更(相続登記)の手続き
前述の通り書類の用意ができましたら、申請書を作成します。
書き方は、上で紹介した法務局のURLに記載されているため参考にしてください。
集めた書類の原本を返却してもらいたい場合は、コピーをして「原本と相違ありません。氏名(印)」とします。
何枚もある場合は、1枚目にだけこの処理をして、ホッチキスで合綴の上、2枚目以降は契印(割り印)していく方法で構いません。
戸籍謄本については、相続関係説明図を作成して提出すれば、コピーしなくても原本は返却してもらえますが、さほど量がない場合はコピーした方が早いかもしれません。
すべてそろったら管轄法務局に持って行くか、郵送で申請します。
書類に不備がある場合は訂正するように指示があるため、遠方であれば訂正に行けないこともあります。
そのため、事前に近くの法務局で無料の登記相談の予約をして内容に不備がないかを相談するのも一つの方法です。
申請後に不備がなければ1~2週間程度で完了して、新しい権利証(登記識別情報)が通知されます。
自分が所有者となった新しい登記簿謄本は、登記完了後は全国どこの法務局でも取得することができます。
おわりに
本記事では登記手続きの中でも相続登記に焦点をあてて説明してきました。
こちらの内容と法務局のホームページ記載のひな型を利用すれば、ある程度はご自身でも完成できるかと思います。
ただ、相続人がかなりの数であったり、相続人の一部が亡くなってさらに相続がおきていたりする場合、相続関係が兄弟姉妹のみの場合など、戸籍を集めるだけで法律関係を理解する必要があり、司法書士に依頼する方が早くて正確に完了させることができます。
また、相続人の話し合いがまとまらない場合などはそもそも遺産分割協議書の作成ができないため、相続に関して不安があるようでしたら弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
最終更新日 2024年7月6日
最終更新日 2024年7月6日