遺産分割の前提問題とは?3つの問題と争う手続

遺産分割の前提問題とは?3つの問題と争う手続3

「遺産分割の前提問題に争いがあるけど、どうしたらよいのだろうか」とお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ここでは、遺産分割の前提問題とはどのようなもので、どのように対処したらよいのかについて解説します。

遺産分割の前提問題とは

遺産分割の前提問題に争いがある場合には、遺産分割事件を解決する前に、まずはそれらの前提問題を解決しなければなりません。

遺産分割の前提問題についての争いとしては、①相続人の範囲についての争い、②遺産の範囲についての争い、③遺言書や遺産分割協議書の有無・効力・解釈についての争いが想定されます。

相続人の範囲についての争い

遺産分割の前提問題とは?3つの問題と争う手続2相続人の範囲についての争いとしては、①被相続人の法定相続人となるべき身分関係が最初からなかったのではないかという争い、②被相続人の法定相続人となるべき地位が最初はあったとしても後発的な事情で失われたのではないかという争いが想定されます。

②について具体例を挙げると、相続放棄の効力が争われたり、相続人の欠格や廃除が主張されたりするケースになります。

被相続人の法定相続人となるべき地位には、①配偶者たる地位、②実子たる地位、③養子たる地位があります。

配偶者たる地位が争われるケースのうち、婚姻の無効原因や協議離婚の無効原因(婚姻や離婚をする意思がなかった等)が主張される場合は、遺産分割審判の中で判断することもできます。

これに対し、婚姻の取消事由(重婚や近親婚に該当する場合など)や協議離婚の取消事由(詐欺や強迫によって離婚をさせられた場合など)が主張される場合は、婚姻や離婚の取消の効果は請求を認容する訴訟等の判断の確定によって発生することから(これを「形成効」と言います)、遺産分割審判の中で判断することはできません。

そのため、これらの取消事由を主張する相続人は、遺産分割手続に先立って取消訴訟を提起しなければなりません。

実子たる地位が争われるケースのうち、被相続人との間の親子関係が存在しないと主張される場合は、遺産分割審判の中で判断することもできます(この点について、最高裁判所昭和50年9月30日判決は、遺産分割審判の中で判断できるとの判断を示しました)。

これに対し、認知の請求、認知の無効の主張、嫡出子の推定を受ける子について被相続人の子ではないとの主張、二重に嫡出推定を受ける子についてその父が被相続人ではないとの主張については、これらの効果は請求を認容する訴訟等の判断の確定によって発生することから、遺産分割審判の中で判断することはできません。

そのため、これらを主張する相続人は、遺産分割手続に先立って訴訟を提起しなければなりません。

養子たる地位が争われるケースのうち、養子縁組の無効や協議離縁の無効原因(養子縁組や離縁をする意思がなかった等)が主張される場合は、遺産分割審判の中で判断することもできます。

これに対し、養子縁組の取消事や協議離縁の取消事由が主張される場合は、養子縁組や離縁の取消の効果は請求を認容する訴訟等の判断の確定によって発生することから、遺産分割審判の中で判断することはできません。

そのため、これらの取消事由を主張する相続人は、遺産分割手続に先立って取消訴訟を提起しなければなりません。

相続放棄の効力が争われたり、相続人の欠格事由が主張されたり、廃除が求められたり、廃除の取消しが求められたりするケースのうち、推定相続人の廃除・取消請求は独立した審判事項とされており、その審判の確定によって効力が発生するため、遺産分割審判の中で判断することはできず、遺産分割手続に先立って廃除や廃除の取消しを求める審判を申し立てなければなりません。

これに対し、相続放棄の効力や相続人の欠格事由については遺産分割審判の中で判断することもできます。

相続人の範囲についての争いへの対処方法

このように、相続人の範囲に争いがある事件については、遺産分割手続に先立って訴訟や審判で解決しなければならないものと、遺産分割審判の中で判断できるものがあります。

しかし、家庭裁判所の実務では、たとえ後者であっても遺産分割審判では判断せず、訴訟提起や審判申立てを促す運用をしています。

係属中の遺産分割事件については、訴訟提起や審判申立てがなされた時点で取り下げ、訴訟や審判が確定した後に改めて遺産分割調停を申し立てることになります。

家庭裁判所が遺産分割審判の中で判断することができる事項についても訴訟提起や審判申立てを促す理由は、遺産分割審判には後の裁判所の判断を拘束する力(これを「既判力」と言います)がないことから、相続人の範囲について遺産分割審判で判断した後に訴訟が提起され、その訴訟で遺産分割審判とは別の判断が示されて確定した場合には、訴訟での判断が優先することになるからです。

そして、遺産分割審判は全ての相続人を当事者としなければならず、相続人の一部を欠いたままなされた遺産分割審判は全体として内容上の効力を生じないことから、相続人の一部を欠いた遺産分割審判は無効となり、遺産分割調停からやり直すことになります。

以上のことから、相続人の範囲に争いがある事件については、訴訟提起や審判申立てがなされたことを確認した後に係属中の遺産分割調停を取り下げ、訴訟や審判の確定後に新たに遺産分割調停の申立てをすることになります。

遺産の範囲についての争い

遺産の範囲についての争いとしては、①当該財産が被相続人名義であるが遺産ではなく、特定の相続人や第三者の固有財産であるという争い、②当該財産が特定の相続人や第三者名義であるが遺産であるという争い、③遺産を管理している相続人が開示したもの以外にも遺産があるのではないかという争いが想定されます。

これらを端的に整理すると、「ある財産が遺産に含まれるかどうかについて争いがある事件」ということになります。

遺産の範囲についての争いへの対処方法

遺産分割の前提問題とは?3つの問題と争う手続3ある財産が遺産に含まれるかどうかについて争いがあるときは、この争いは本来的に訴訟で解決されるべき事項であるため、ある財産について遺産に含まれると主張する相続人が原告となり、他の全ての相続人を被告として遺産確認訴訟を提起し、その判決確定後に遺産分割調停の申立てをすることになります。

この点について、最高裁判所昭和41年3月2日決定は、遺産の帰属性(ある財産が遺産に含まれるかどうか)を家庭裁判所が判断した上で遺産分割の審判をすることができるとの判断を示しました。

しかし、遺産分割審判で遺産の帰属性について判断可能であるとしても、家庭裁判所が判断することが適切かどうかは全くの別問題です。

なぜなら、遺産分割審判で示された判断を不服とする相続人は、遺産確認訴訟(遺産分割審判で遺産であることが否定されたとき)や所有権確認訴訟(遺産分割審判で特定の相続人名義の財産が遺産であることが認められたとき)を提起し、遺産分割審判の判断内容を覆すことができるからです(前述したとおり、審判には既判力がないため、後の裁判所を拘束することができないため)。

この点について、上記の最高裁判所決定も、遺産分割審判の後に提起された訴訟で審判とは異なる判断がなされ、その判決が確定した場合には、遺産分割審判は判決の判断と抵触する限度で効力を失うとの判断を示しています。

しかし、審判が効力を失った後、審判によって取得したはずの遺産を取得できなくなってしまった相続人の利益をどのように保護するかについて定立された基準がないことから、審判を先行させると法律関係が複雑かつ不安定になってしまいます(民法911条の共同相続人間の担保責任の規定によって解決を目指すことになるものの、担保責任の内容について遺産分割の解除を認めるべきかどうかについて争いがあります)。

そのため、家庭裁判所の実務では、相続人全員が不起訴の合意(民事訴訟を提起しないという合意)をしてその旨を調書に記載するか、遺産の帰属性を争うとの主張が遺産分割を引き延ばす目的に出たものであり、後になって訴訟が提起されたとしてもその主張が認められる蓋然性は低いと考えられる場合でない限り、遺産分割調停のできるだけ早い段階で訴訟の提起を促し、遺産分割調停は訴訟の提起を待って取下げを勧告する(訴訟の判決が確定した後、必要であれば、その時点で新しく遺産分割の調停を申し立てる)という運用がなされています。

遺言書や遺産分割協議書の有無・効力・解釈についての争い

有効な遺言書や遺産分割協議書がある場合には、遺産分割手続はこれらを前提に行わなければなりません。

そのため、これらの有無・効力・解釈に争いがある場合には、その争いを解決してからでなければ遺産分割をすることができません。

遺言書の有無に争いがある事件とは、特定の相続人が遺言書を隠匿したり破棄したりした場合です。

この場合、家庭裁判所の調停委員会は、遺言書を保管していると思われる相続人に対し、遺言書の隠匿は相続欠格事由であり相続権を失うリスクがあることを説明して任意提出を促すという運用をしています。

しかし、その相続人が遺言書を保管していないと言い張って遺言書を任意提出しないときは、遺言書が存在しないものとして遺産分割調停を進めていくしかありません(あくまでも遺言書の存在を主張する相続人には訴訟提起を促すことになります)。

なお、遺言書の原本がなくてもコピーが存在するときは、そのコピーを含む証拠によって有効な遺言書の原本の存在を認定し、有効な遺言書としての効力が認められる場合がありますので(東京高等裁判所平成9年12月15日判決)、あくまでも遺言書の存在を主張する相続人には訴訟提起を促すことになります。

遺言の効力に争いがある事件の典型例は、遺言書が被相続人の死期が迫った段階で作成され、遺言能力に疑義が生じるようなケースです。

また、遺言の解釈に争いがある事件の典型例は、自筆証書遺言の記載が曖昧であったり前後矛盾していたりするようなケースです。

また、複数の遺言書があるケースでは、作成時期の先後、撤回の有無や範囲、撤回されていない部分の整合性などが問題となります。

遺産分割協議書の効力に争いがある事件の典型例は、相続税を納付する目的で作成されたもので遺産分割をする合意まではなかったというようなケースです。

なお、ある相続人が何らかの債務を負担する代わりに遺産を多く取得することを遺産分割協議で約束したものの債務不履行をしたときは、相続人全員が合意すれば遺産分割協議を解除することができますが(この点につき、最高裁判所平成2年9月27日判決)、特定の相続人だけで遺産分割協議を債務不履行解除することはできません(この点につき、最高裁判所平成元年2月9日判決)。

遺言書や遺産分割協議書の有無・効力についての争いへの対処方法

遺産の範囲に争いがある事件の対処方法と同様の方法で対処することになります。

まとめ

このように、遺産分割の前提問題に争いがあるときには上記のような注意点があります。

遺産分割についてお困りのときは、当事務所までお気軽にご相談ください。

この記事の監修者
弁護士・監修者
弁護士法人ひいらぎ法律事務所
代表 社員 弁護士 増田 浩之
東京大学卒。姫路で家事事件に注力10年以上。神戸家庭裁判所姫路支部家事調停委員。FP1級。

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