生前に相続放棄はできない! 考えられる代替策は?
最終更新日 2024年7月6日
「特定の相続人には自分の死後に自分の財産を相続させたくない」
「被相続人の遺産など要らないので関わりたくない」
とお考えの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ここでは生前に相続放棄ができるのかどうか、できないとして考えられる代替策について解説します。
相続人にとっての生前の相続放棄の必要性
民法915条1項は、相続放棄ができる期間について、「自己のために相続の開始があったときを知った時から3箇月以内」に限定しています。
ここで「相続の開始があったとき」とは被相続人が死亡したときを意味しますので、被相続人の生前に相続放棄をすることはできません。
被相続人の遺産の相続を希望しない相続人としては、被相続人が死亡した後に相続放棄をすることで、簡単にその目的を達成することができます。
被相続人との関係が疎遠で、被相続人が死亡した事実を知らなかったとしても、「知った時から3箇月以内」と規定されていますので、5年後でも10年後でも、被相続人の死亡の事実を知った時点で相続放棄をすればよいため、不都合はありません。
なお、被相続人の生前であっても、家庭裁判所の許可を得ることで「遺留分の放棄」をすることができます(民法1049条1項)。
しかし、遺留分の放棄をしたとしても、被相続人に債務があるときはその債務を相続することになってしまいます。
つまり、被相続人の遺産の相続を希望しない相続人としては、被相続人の生前に遺留分の放棄をしたとしても、被相続人の死後に相続放棄をしなければならないということは変わりませんので、あえて被相続人の生前に遺留分の放棄をするメリットはありません。
被相続人にとっての生前の相続放棄の必要性
特定の相続人に遺産を相続させたくないと考えている被相続人にとっては、自分の生前に特定の相続人に遺留分の放棄をさせることにはメリットがあります。
なぜなら、配偶者や直系卑属(子、孫、ひ孫等)には遺留分があるため、被相続人が「特定の相続人には一切の遺産を相続させない」旨の遺言をしたとしても、「法定相続分×一定割合」で計算される遺留分を侵害する限度でその遺言は無効になり、遺留分相当額の遺産を相続させなければならないことになるからです。
具体的には、法定相続人が配偶者と2人の子であるケースでは、配偶者の遺留分は4分の1、子の遺留分はそれぞれ8分の1ずつになります。
そのため、配偶者に一切の遺産を相続させない旨の遺言をしても、配偶者は遺産の4分の1を相続することができてしまうのです。
しかし、特定の相続人に遺留分を放棄させるためには、家庭裁判所の許可が必要です(民法1049条1項)。
家庭裁判所は、許可をする前に、遺留分を有する相続人の自由意思によるものかどうか(親の権威等により遺留分の放棄を強制されたものではないか)を確認します。
前述したように、被相続人の遺産の相続を希望しない相続人にとっては被相続人の生前に遺留分の放棄をするメリットはありませんので、何らのメリットがない遺留分の放棄に特定の相続人が協力してくれるかどうかという現実的な問題もあります。
相続欠格と廃除で何とかならないか
相続欠格と廃除は、どちらも推定相続人から相続権を剥奪する制度です(遺留分を行使することもできなくなります)。
このうち、被相続人の意思とは無関係に発生するものが相続欠格、被相続人の意思に基づいて発生するものが廃除になります。
しかし、相続欠格は、被相続人などの生命を侵害したり遺言を妨害したりする重大な非行行為に限定されます(民法891条)。
また、廃除は、相続欠格よりも広く認められるものの、被相続人に対する虐待、重大な侮辱、その他の著しい非行をしたときという要件があり、こちらも簡単に認められるようなものではありません(民法892条、893条)。
生前贈与で何とかならないか
被相続人が遺留分を有する特定の相続人に遺産を相続させないために、他の相続人に遺産を生前贈与したとしたら、どうなるでしょうか。
民法1043条1項は、「遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。」と規定しています。
つまり、遺留分を計算する対象は「被相続人の死亡時の相続財産+被相続人が生前贈与した財産-債務」となりますので、被相続人が生前贈与をしたとしても遺留分を減らすことはできません。
しかも、民法1044条は、第三者に対する贈与であれば相続開始前の1年間の贈与に限定するものの、相続人に対する贈与であれば相続開始前の10年間の贈与を対象としています(しかも、被相続人と贈与された相続人がその贈与によって遺留分が減少することを知っていたら、20年前や30年前の贈与も対象になります)。
まとめ
このように、生前の相続放棄はすることができませんが、遺言の内容を工夫することで特定の相続人により多くの遺産を相続させることができる場合もあります。
生前の相続放棄や遺言の内容についてお困りのときは、当事務所までお気軽にご相談ください。
最終更新日 2024年7月6日