財産放棄(遺産放棄)と相続放棄の違いとは?手続を決める際のチェックポイント

財産放棄(遺産放棄)と相続放棄の違いとは?手続を決める際のチェックポイント

最終更新日 2022年10月2日

「相続をしたくないけど、遺産は要らないと他の相続人に言うだけでよいのだろうか」とお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ここでは相続放棄をすることの重要性について解説します。

遺産が要らないときの方法

財産放棄(遺産放棄)と相続放棄の違いとは?手続を決める際のチェックポイント2相続人になったものの遺産が要らない場合には、①他の相続人に対して「遺産は要らない」と宣言すること(これを「遺産放棄」と言うことにします)、②家庭裁判所に対して相続放棄の申述をすることの2種類の方法があります。

相続放棄をするためには、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に」(民法915条1項)、「その旨を家庭裁判所に申述しなければな」(民法938条)りません。

通常は、被相続人が死亡したことを知った時点で自分が相続人になったことを知ります。

そのため、相続放棄は、被相続人が死亡してから3か月以内に行わなければならず、この期間(これを「熟慮期間」と言います)を過ぎてしまうと相続放棄をすることができなくなってしまいます。

しかも、相続放棄は、家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出して行うため、ほとんどの人は生まれて初めて裁判所に行かねばならないという心理的なハードルを乗り越える必要があります。

この2つの理由(短い準備期間と裁判所に行かなければならないという心理的負担)から、相続放棄をすることが面倒になり、「どうせ遺産は要らないし、もし借金があっても遺産を承継する他の相続人が何とかしてくれるだろう」と思って遺産放棄を選択すると、大変なことになります。

相続放棄と遺産放棄との決定的な違い

財産放棄(遺産放棄)と相続放棄の違いとは?手続を決める際のチェックポイント3相続人は、「無限に被相続人の権利義務を承継する」(民法920条)ことになります。ここで「被相続人の義務」とは債務(「相続債務」と呼ばれています)のことです。

それぞれの相続人は、債務の性質上分割可能であれば、相続分に応じて法律上当然に分割された相続債務の履行をしなければなりませんし、債務の性質上分割が不可能であれば、全相続人が共同して、あるいは各相続人が全相続人のために相続債務の履行をしなければなりません。

しかし、相続放棄をすると、「初めから相続人とならなかったものとみなす」(民法939条)という法的な効果が発生します。

つまり、相続放棄をすると、被相続人の権利を承継できない代わりに義務の承継も免れることになるわけです。

実務的には、家庭裁判所に相続放棄の申述をすると家庭裁判所から受理証明書が発行されますので、受理証明書をコピーして相続債権者に渡せば、以後は相続債権者から請求を受けることはなくなります。

しかし、相続放棄をせずに遺産放棄を選択すると、法的には単純承認をしたことになりますので、相続債権者との関係では「無限に被相続人の権利義務を承継する」(民法920条)ことになります。

ここで「遺産を承継した他の相続人が借金も払ってくれるのではないか」と期待してはいけません。

あなたと他の相続人との関係が良好であれば、通常は遺産放棄という結果には至らず、なにがしかの遺産を承継することになるはずだからです。

つまり、遺産放棄という結果になった以上は、あなたと他の相続人との関係は敵対関係とは言わないまでも良好であるとは言えない関係であると考えなければなりません。

つまり、他の相続人は、あなたのためを思って行動してはくれないということを覚悟すべきです。

遺産放棄のやり方

遺産放棄をするとしても、単に「遺産は要らない」と宣言するのではなく、他の相続人に相続債務の負担を約束させた上で「遺産は要らない」と宣言しなければなりません。

具体的には、遺産分割協議書にその旨を明記しておかなければなりません。

遺産分割協議書に相続債務の負担について明記しておかないと、債務の性質上分割可能であれば、相続分に応じて法律上当然に分割された相続債務の履行をしなければならないことになりますし、債務の性質上分割が不可能であれば、全相続人が共同して、あるいは各相続人が全相続人のために相続債務の履行をしなければならないことになります。

端的に言えば、借金だけを相続することになってしまうわけです。

しかし、相続債務の負担者について遺産分割協議書に明記したとしても、相続債権者に対しては遺産分割の結果を主張することはできませんので、相続債権者から履行の請求があったときはそれに応じなければなりません。

相続債権者の請求に応じて債務を支払った後、遺産分割協議書に記載された債務の負担者に求償することになりますが、その人に支払能力がない場合には(承継した遺産を全て使い切ってしまった等)、泣き寝入りするしかないことになります。

つまり、相続放棄ではなく遺産放棄を選択することは、他人(それも人間関係が良好であるとは言えない人)の債務の連帯保証人になることと同じようなリスクがあると考えるべきです。

まとめ

このように、相続放棄ではなく遺産放棄を選択する場合には上記のような注意点があります。

相続放棄についてお困りのときは、当事務所までお気軽にご相談ください。

最終更新日 2022年10月2日

この記事の監修者
弁護士・監修者
弁護士法人ひいらぎ法律事務所
代表 社員 弁護士 増田 浩之
東京大学卒。姫路で家事事件に注力10年以上。神戸家庭裁判所姫路支部家事調停委員。FP1級。

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