遺産が未分割の場合、遺留分侵害額の計算はどうなるのか?
最終更新日 2024年6月30日
遺言により遺産が残っていなければ、遺留分侵害額の計算はさほど難しくありません。
では、遺産が未分割の場合、遺留分侵害額の計算はどうなるのでしょうか?
遺留分を算定する際に、遺産分割がまだ終わっていないケースではどのように扱われるのかが問題となります。
今回はやや理解しづらいテーマではあるかもしれませんが、なるべく理解しやすい事例を挙げて説明していきます。
遺留分の算出方法
まず、前提として遺留分の算出方法を整理しておきます。
「相続開始時に存在した財産」+「遺贈された額」+「相続人対して相続開始前10年間にされた贈与」+「相続人以外に対して相続開始時1年間にされた贈与」−「相続開始時の債務総額」
を遺留分算定基礎財産として算出します。
その額に以下の割合を掛けます。
直系尊属が相続人→3分の1
それ以外→2分の1
(ただし、兄弟姉妹が相続人の場合には遺留分なし)
ここで出た額に法定相続分割合を掛けることで相続人1人ずつの遺留分が算出できます。
事例1
例えば、相続開始時に存在する財産が3000万円として、1年前に配偶者に対してされた贈与が500万円、その他の事実関係はないとして、相続人が配偶者・長男・次男の3人である場合の計算は、
3000万円+500万円=3500万円
直系尊属以外が相続人となる場合ですから、これに2分の1を掛けます。
3500万円×2分の1=1750万円
これに各相続人の相続分割合を掛けると、
配偶者 1750万円×4分の2=875万円
長男 1750万円×4分の1=437万5000円
となりますが、配偶者が生前贈与500万円を受けていますから配偶者の相続分から差し引きます。
875万円−500万円=375万円
つまり、以下の結果になります。
配偶者 375万円
長男 437万5000円
次男 437万5000円
さて、この場合に相続開始時の財産はまだ遺産分割されていないとすると、その遺産分割の対象となる財産をどのように扱うかが問題となります。
事例2
もう一つ例を挙げて説明します。
(相続関係)
被相続人 A
相続人 B(妻)
C(長男)
D(次男)
(相続開始時に存在する財産)
5000万円(ただし、次の遺贈の分は含まない)
(遺贈の額)
受遺者 相続人Cに500万円
受遺者 相続人以外の第三者Xに4000万円
この事例で第三者Xに対して遺留分侵害額請求をする場合の計算をしていきます。
計算方法
まずは、遺産分割の対象となる相続財産を法定相続分割合でそれぞれの具体的相続分を算出します。
相続開始時は、5000万円がありますが、遺贈分4500万円がありますから、実際には500万円です。
B 500万円+Cへの遺贈500万円×4分の2=500万円
C 500万円+Cへの遺贈500万円×4分の1=250万円、ここから遺贈で受け取る500万円を引いて、−250万円
D 500万円+Cへの遺贈500万円×4分の1=250万円
次にこれをもとに、実際に今手元にあるお金の取り分を計算します。
B 500万円×750万円(B500、Cなし、D250)分の500万円(自分の相続分)=333万3333円
C マイナスなので0
D 500万円×750万円分の250万円(自分の相続分)=166万6667円
現存する500万円の相続分は上記にとおりとなります。
次にそれぞれが有する遺留分を計算します。
遺留分の計算の元となる額は冒頭で解説したとおりですので、この事例では5000万円となります。
そして、全体の遺留分が直系尊属以外ですから2分の1の2500万円です。
B 2500万円×4分の2=1250万円
C 2500万円×4分の1=625万円
D 2500万円×4分の1=625万円
ここから、遺留分侵害額の計算をしていきます。
Bは、遺留分1250万円のうち、先ほど算出した333万3333円は遺産分割として取得する計算となりますから、
1250万円−333万3333円=916万6667円
となります。
Cは、遺留分625万円のうち、遺産分割で取得する分はありませんが遺贈により500万円を取得するので、
625万円−0−500万円=125万円
Dは、遺留分625万円のうち、先ほど算出した166万6667円は遺産分割で取得する計算となりますから、
625万円−166万6667円=458万3333円となります。
つまり、相続人はそれぞれ第三者Xに対してなされた遺贈のうち、上記の額を返還するよう請求ができることになります。
民法改正前の計算
上記は、民法改正後の計算方法ですが、改正前の考え方によれば、上記の最後にした遺留分侵害額の計算が以下のようになります。
遺留分から、遺産分割の対象となる財産に法定相続分を掛けた額を引く考え方です。
B 1250万円−(500万円×4分の2)=1000万円
C 625万円−(500万円×4分の1)−500万円(遺贈の分)=0
D 625万円−(500万円×4分の1)=500万円
となります。
結論
上記で算出した遺留分侵害額請求をした(Xから取り戻した)として、最終的にそれぞれが取得する財産額をまとめてみます。
(改正法の計算方法)
B 333万3333円(遺産分割対象分)+916万6667円(Xから取り戻した分)=1250万円
C 500万円(自分の受けた遺贈)+125万円(Xから取り戻した分)=625万円
D 166万6667円(遺産分割対象分)+458万333円(Xから取り戻した分)=625万円
となり、相続人全員から遺留分侵害額請求を受けたXの取得額は、
4000万円−(916万6667円+125万円+458万3333円)=2500万円
となります。
(改正前の計算方法)
B 333万3333円(遺産分割対象分)+1000万円(Xから取り戻した分)=1333万3333円
C 500万円(自分が遺贈を受けた分)
D 166万6667円(遺産分割対象分)+500万円(Xから取り戻した分)=666万6667円
となり、相続人から遺留分侵害額請求をされたXの取得額は、
4000万円−(1000万円+500万円)=2500万円
となります。
まとめ
今回は、遺産分割がされていない場合の遺留分侵害額の計算方法を解説してきました。
理解するのが難しいテーマになりますが、改正法に基づく計算方法を採用することで、遺贈を受けた相続人の遺留分侵害額請求をした後の取得額が、遺贈を受けていない相続人の取得額より少なくなるという減少を避けることができます。(上記2つの計算方法によるCとDの最終取得額を比較してください)
また、遺産分割が実際にされたかどうかを問わずに改正法に基づく計算方法を採用することにより、第三者が最終的に取得できる額も変わらないことになります。
つまり、遺贈や贈与を受けた第三者が参加することのできない遺産分割により、現存の財産を誰が取得するかで第三者の取得額が減少することになってしまうという結果が生じるからです。
実際に遺留分侵害額請求をされる方は、弁護士などの専門家に相談するようにしてください。
最終更新日 2024年6月30日